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自立と郷愁(『レディ・バード』鑑賞録★★★★☆)<ネタばれ注意>


Edit Category 映画
レディバード
(画像:公式サイト(http://ladybird-movie.jp/)より引用)

Outsiderの評価:★★★★☆(星5つ中4つ)

1. 概要
a.作品
題名『レディ・バード』(原題『Lady Bird』)

<ストーリー>
羽ばたけ、自分
2002年、カリフォルニア州サクラメント。
閉塞感溢れる片田舎のカトリック系高校から、
大都会ニューヨークへの大学進学を夢見るクリスティン(自称“レディ・バード”)。
高校生活最後の1年、友達や彼氏や家族について、
そして自分の将来について、悩める17歳の少女の揺れ動く心情を
瑞々しくユーモアたっぷりに描いた超話題作!
(公式サイト(http://ladybird-movie.jp/story.html)より引用)

 アメリカで、2017年11月3日公開。日本では、2018年6月1日公開。
アメリカでの興行成績は、約4900万ドルを売り上げ、スマッシュヒット。
製作費は約1000万ドルであるため、興行としては大成功である。(※1)

b.スタッフ・キャスト
 『レディ・バード』は演技の作品だとも言えるほどの、
名俳優が結集した映画となっている。

 主人公レディ・バード役には、『つぐない』、『ラブリーボーン』、『ブルックリン』に
出演した、シアーシャ・ローナン
 アカデミー賞でのノミネート経験が3度もある、筋金入りの名演者。

 レディ・バードと対立する母マリオン役は、エミー賞受賞経験が3度ある、
ローリー・メトカーフ

 その他、レディ・バードの彼氏役に、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で
アカデミー助演男優賞にノミネートされた、ルーカス・ヘッジズ

 『君の名前で僕を呼んで』でニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞、
ロサンゼルス映画批評家協会賞主演男優賞を受賞した、ティモシー・シャラメ

など次代を担う俳優が名を連ねる。

 監督は、グレタ・ガーウィグ。 ガーウィグは、『フランシス・ハ』で評価された
女優・脚本家として有名であったが、今作が初監督作となる。
 2014年に開催された第64回ベルリン国際映画祭において、審査員を務めた。


c.評価
 本作は2017年に公開された映画の中でも際だって高い評価を得ており、映画批評集積サイト
のRotten Tomatoesで批評家支持率100%を記録していた希有な作品となった。
 レビュー数が150件を超えてもなお100%を維持している作品は『マン・オン・ワイヤー』(2008年)以来であった。
 しかし、同年12月10日、196番目のレビューがRotten評価を下したため、支持率は99%になっている。
(引用:Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/レディ・バード_(映画)#cite_note-Ro-3))

d.受賞歴
各映画賞席巻の100部門受賞&191部門ノミネート!
 <主な受賞歴>
 〇第90回アカデミー賞(2018年) ~5部門ノミネート~
   ・作品賞→レディ・バード(ノミネート)
   ・監督賞→グレタ・ガーウィグ(ノミネート)
   ・主演女優賞→シアーシャ・ローナン(ノミネート)
   ・助演女優賞→ローリー・メトカーフ(ノミネート)
   ・脚本賞→グレタ・ガーウィグ(ノミネート)

 〇第75回ゴールデン・グローブ賞(2018年)
  <ミュージカル/コメディ部門>
 ~2部門受賞、2部門ノミネート~
   ・作品賞→レディ・バード(受賞)
   ・主演女優賞→シアーシャ・ローナン(受賞)
   ・助演女優賞→ローリー・メトカーフ(ノミネート)
   ・脚本賞→グレタ・ガーウィグ(ノミネート)

 〇デンバー国際映画祭 ~1部門受賞~
   ・Rare Pearl Award→グレタ・ガーウィグ(受賞)

 〇ゴッサム・インディペンデント映画賞 ~1部門受賞、2部門ノミネート~
   ・女優賞→シアーシャ・ローナン(受賞)
   ・脚本賞→グレタ・ガーウィグ(ノミネート)
   ・ブレイクスルー監督賞→グレタ・ガーウィグ(ノミネート)

 〇ハリウッド・ミュージック・イン・メディア・アワーズ ~1部門受賞~
   ・音楽監修賞(映画部門)→ブライアン・ロス(受賞)

 〇インディペンデント・スピリット賞 ~1部門受賞、3部門ノミネート~
   ・脚本賞→グレタ・ガーウィグ(受賞)
   ・作品賞→Lady Bird(ノミネート)
   ・主演女優賞→シアーシャ・ローナン(ノミネート)
   ・助演女優賞→ローリー・メトカーフ(ノミネート)

 〇ミルヴァレー映画祭 ~1部門受賞~
   ・観客賞銀賞→グレタ・ガーウィグ(受賞)

(引用:Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/レディ・バード_(映画)#cite_note-Ro-3)、映画.com(https://eiga.com/news/20180304/10/)、http://ゴールデングローブ賞歴代.com/2018/http://eigaz.net/prediction/2018.php



2.感想
「青春映画の佳作」というのが一番的を得た評ではないか

 高校3年の女子高生のリアルな青春を描いた佳作と言える。繊細でリアルな作りに
成功しているが、自分は、評価にあるような大絶賛にはなかなかいかないところがある。

 これはもう自分の好みとしか言いようがないので、なんとも言えないのであるが、
世紀に残る名作とまでは言い切れない。

 ただ、役者の演技や、音楽、グレタ・ガーウィグの演出は良い。
特にグレタ・ガーウィグにはセリフの作り方のうまさ、間の取り方のうまさがあると思う。
間の取り方で笑ったシーンが何個もあった。



3.考察<自立と郷愁>
a.母と娘の物語
 カーヴィグが最初に作った脚本の題名が『Mothers and Daughters』=『母と娘』で
あったことからも分かるように、この物語はレディ・バードだけの話ではなく、
母・マリオンと娘・レディ・バードとの関係が一番の主軸の物語になっている。(※2)
 娘に嫌味しか言えない、厳しいマリオンと、自分を特別な存在だと思っている
レディ・バードの関係は、世界の女子高生の共感を得るものであろう。
 「理想の人」になってほしい母は、娘に「最高の状態であってほしい」と伝えるが、
レディ・バードの「今が最高だったら?」の言葉に絶句する。
 あるべき姿ではなく、今、いる自分を愛してほしいがための発言であるが、
現代の若者に共通する実存の叫びである。
 また、お金がなく、娘に対して素直になれない母親についての共感も、
得られる映画であることは間違いない。


b.身近なものへの愛=サクラメント(故郷)への愛=パトリオティズム
 ガーウィグは、「サクラメントの四重奏(カルテット)」を作りたかったとインタビューで
答えている(※3)が、今作では、母=故郷という重なりも見せながら、
サクラメントへの愛をもつづっている。
 自我の強いレディ・バードは、挫折・失敗を繰り返しながら、徐々に自分以外のものへと
アイデンティティを拡張していく。それは、友人・家族・サクラメントといった自己を
形成した身近なものへの愛に気づいていくプロセスである。
 近代的個人が陥る、独我論的自己を超脱し、レディ・バードはクリスティンに「なっ」た。

 目立つこと以外に何もなかったレディ・バードは、真の自己を確立する。

 イケてる友達との付き合いは、ほんものではないことに気づき、
 レディ・バードは彼らの車を降り、仲たがいをしていた親友
ビーニー・フェルドスタイン)の元へと向かう。

 レディ・バードは憧れのニューヨークに降り立ち、憧れのイケてるクラブに行くが、
彼女にはすでに憧れへの違和が生まれていた。
 話しかけた男に、神への信仰について聞くが、お約束の「無神論」で切り返されると、
「親の名前は受け入れるのに神は受けつけないの?」
と反論する。
 それはかつての自分への批判でもあった。その後名前を聞かれたレディ・バードは、
自己を「クリスティン」であると告げる。

 レディ・バードは母との相克を抱えながらニューヨークへと降り立つが、
マリオンが書いては捨て、書いては捨てた自分に宛てるはずの手紙を
父から受け取った。
 教会を出たレディ・バードは、親に電話をする。だが、二人は出ない。
レディ・バードは、留守電にメッセージを残す。
「この名前(クリスティン)気に入っている」
「ねえ、ママ初めて運転したとき感動した?」
 レディ・バードは、初めての運転をしたときに、サクラメントの美しさに
改めて気が付いた。
それは、母マリオンが、仕事帰りに車から見ていた、情感のあふれた、
いつもの「ここ」だった。
 レディ・バードが回想するサクラメントの景色は、冒頭マリオンが
車から見ていた情景と同一になる。
それは、愛のこもった、親しみのある情景であった。

・車で大学を視察しに行くレディ・バードとマリオンはスタインベックの
「怒りの葡萄」の朗読テープを聞いて、涙する。これが一番違和感があり、
「なんじゃ、この親子は」と思ってしまったのだが、「怒りの葡萄」はカリフォルニアに
移住してきた人々の話であり、彼らはそれに共感していたのだと後から分かった。

・劇中2回レディ・バードの手には、腕輪がつけられる。1回目は、母が運転する車から
飛び降りた時に骨折した腕を支えるギブス。2回目は、ニューヨークで泥酔した後、
病院でつけられた、患者の情報が書いた腕輪。
それらの腕輪が意味するものは、彼女がレディ・バードであり続けている証
のようなものである。
腕輪が外された時、彼女は本物の「羽ばたける女性」となる。

cその他
・これは完全に深読みと言われても仕方ないのだが、レディ・バードとダニーが
自分たちの星を決め、星の名前を決める場面がある。
 ダニーは「クロード」と名付け、レディ・バードは「ブルース」と名付ける。
 「クロード」の由来は、ラテン語のクラウディウス(意味は「ラメ」(足の不自由な))の
フランス語形であるとのこと。
 これは、ダニーのカソリック社会には受け入れられないであろう「同性愛」を
象徴している。
ダニーにとって、自己の「同性愛」は「障害」なのであり、その耐えられない不安から
別れたレディ・バードに自己の弱さを吐露するのである。

 では、レディ・バードの名付けたブルースはどうか。その由来は、フランス語の
「雑木林」、「灌木の茂み」からであるとのこと。うっそうとした、
多様な草木が混じった、人工林という意味である。
 いまだレディ・バードであることを追求していたレディ・バードにとって、
自己とは人工的で、五里霧中になるほど茫漠としたものであり、
つまりは、得体のしれないものだったのである。
 ニューヨークのクラブで、窓から「ブルース!」と名付けた星を叫ぶのは、
今までの得体のしれない、漠然とした自己との別離なのである。

・上述したように、レディ・バードはプロムの日に、イケてる友達と離れ、
親友ビーニー・フェルドスタインの家に行く。
 親友は泣いている。「どうした?」とレディ・バードが尋ねた時、親友はぽつんと告げる。
「ただ幸せになれないだけ」
このセリフは秀逸であった。

d.ガーウィグの思想について
 ガーウィグは、「マンブルコア運動」という映画のムーブメントの旗手として
有名であった。
「マンブルコア運動」とは、概して「自然主義運動」の事であり、
「低予算・アドリブ・手持ちカメラ」などを特徴としながら、リアルな日常を描くことを主義としているようだ。
 確かにこの『レディ・バード』は、その手法を実践したものであると言えよう。
 近代以降、常にリアリズム(ナチュラリズム)とアイデアリズムの対立はあるのであり、
アメリカンニューシネマを生み出した、アメリカに再度リアリズム=ナチュラリズムの気配が出てきたという事なのであろうと思う。





4.結び
 『レディ・バード』の評価は、星4つ。「マンブルゴア運動」とは何か
という事を知るためにも、一回は見ておいた方がいいであろう。
 その手法の清新さとともに、演者の演技力で共感を感じさせられるのは間違いない。




※1-参考:Box Office Mojo(http://www.boxofficemojo.com/movies/?id=ladybird.htm
※2-参考:IndieWire(http://www.indiewire.com/2017/10/greta-gerwig-lady-bird-inspired-by-youth-1201884532/
※3-参考:VANITY FAIR(https://www.vanityfair.com/hollywood/2018/02/greta-gerwig-elena-ferrante-lady-bird-sacramento-movies


※アメリカにおける大学の進学の難しさ及び学費の高さについては、
 https://news.infoseek.co.jp/article/dmenueiga_1144247/を参照。


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